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『鋼の錬金術師』から学ぶ、報われずとも努力すべき理由【連載】トイアンナの超人気マンガ英語塾

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出典: 荒川弘(2001年)鋼の錬金術師 スクウェア・エニックス

こんにちは、トイアンナです。

有名マンガ作品から英語を学ぶシリーズ、今回は読者さんからのご要望で『鋼の錬金術師』から名言をピックアップ! 英語の文法や言い回しを学びながら、感動を追体験していただきたいと思います。

『鋼の錬金術師』は累計発行部数6,100万部、スクウェア・エニックス社発行の漫画では史上最高記録を出しました。2度にわたりアニメ化され、ストーリーが完結した今でもファンが増えている傑作中の傑作です。

等価交換のセオリー

『鋼の錬金術師』を読む上で欠かせないのが『等価交換』のセオリー。『鋼の錬金術師』の世界では、主人公のエルリック兄弟を始めとする錬金術師たちが炎や土壁などを魔法のように錬成します。しかしそこには逃れられない決まりごとがあります。「人が何かを得ようとすれば同等の代価が必要」という、等価交換のルールです。

主人公のエドワードとアルフォンス兄弟は、幼少期に独学で錬金術を学び、すでに死んでしまった母親を蘇らせようとしました。しかし命に等しい等価交換はできません。彼らは母親を復活させられなかったばかりか、自分たちの体を犠牲にしました。特に弟のアルフォンスは、体をすべて持っていかれてしまいます。

鋼の錬金術師は、失った体のパーツを「鋼」で補強した兄・エドワードが弟の体を取り戻すために、魂だけとなってしまい鎧に封じ込められた弟・アルフォンスと旅をする物語です。

「ありえない」なんて事はありえない

まずは、こちらの名言から。

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最初は敵として登場する、グリードのセリフです。この「ありえない」なんて事はありえないというセリフ自体は、初登場が27話と相当初期です。彼は人造人間(ホムンクルス)として謎の人物「お父様」に作られたグリード。等価交換の前段で書かせていただいたとおり、人の命は決して錬成できないものとされていました。

しかし与えられた命で動く人造人間・グリードを目にしたアルフォンスは、思わず「ありえない!! 人造人間が成功したなんて話、聞いた事が無い!!」と叫びます。それに対して答えているのが、グリードの「ありえない」なんて事はありえない・・・でした。

どうやって謎の人物こと「お父様」人造の命を錬成したのか? この答えはあまりに壮大なネタバレへ繋がるので無視しますが、ここで英語版『鋼の錬金術師』のセリフを見てみましょう。

Nothing is impossible.
英訳:不可能なことはない。

うーーーーーーん。間違ってはいないんですが、この翻訳だとナ〇レオンの「吾輩の辞書に不可能はない」というやや頭の悪そうな名言を思い出しませんか・・・? ナ〇ポレオンのパイセンも実はもともとImpossible n’est pas français(不可能、その言葉はフランス的ではないな)といったそれは大層カッコいいお言葉を遺されたのですが、どこかの翻訳者が「ぬわーっはっはっ、我輩の辞書にぃ、不可能はないぞオォー!」的なバカ大将的翻訳をされてしまったのです。

ここは1度、ナ〇レオン先輩の名言にならった超訳をご提案いたします。

Impossible, that’s not possible.
超訳:「ありえない」なんて事はありえない

★ 超訳英語のポイント

○ Impossible と not possible
possibleは「ありえる」という意味です。そしてImpossibleは「ありえない」という意味です。日本語で言えば「不可能」の「不」の部分を im が担っています。文法を見る限りは、Impossible, that’s impossible と書いても問題ありません。ですがあえてここで impossible と not possibleを分けたのは、not possible と記すことで「なんてことはありえない」の否定的なニュアンスを強く押し出せるからです。

また、英語では同じ単語を続けて使うことを避けたがります。たとえば Mr. Edward (エドワード)と名乗っても、次には He(彼)に置き換わりますね。日本語であればずっと「エドワードさん」と記されるべきところを、英語ではわざわざ He にすることで避けているのです。そこで今回も impossible と not possible を使い分けることで、言い回しの重複を避けました。こんなところでも、日本語と英語の差が見られるのは面白いですね。

「努力」という対価を払ったからこそ 今の兄さんがあるんだ

次は少し長いですが、個人的に好きな名言なのでピックアップしました。

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連載が始まってすぐ、アルフォンスは出会った女の子に等価交換の仕組みを教えます。

アルフォンス「言ったろ。錬金術の基本は『等価交換』って。何かを得ようとするならそれなりの代価を払わなければいけない。兄さんも『天才』だなんて言われてるけど『努力』という代価を払ったからこそ今の兄さんがあるんだ」

この文に、私は心を打たれました。なぜならば、努力という代価を支払ったからといって、等価交換で成果を手に出来ないのが現実世界だからです。

この漫画を読むと、あたかも「等価交換」は主人公たちに降りかかる苦しい運命のように思われてきます。人の命を等価交換できる素材はなく、元素を組み替えてしか錬成もできない。ですが現実を振り返ると、こちらの世界はもっと世知辛いことに気付かされます。必死で練習したアスリートが、当日故障でリタイアすることがあります。どんなに恋をしても、あっけなく別の人に奪われる人生もあります。そんな中で、努力の代価をくれる等価交換とはなんと優しいフィクションでしょうか。

この世界は、優しい世界だったのです。それを気付かせてくれるのが、冒頭のこのセリフでした。

早速英語にしてみましょう。

If you want to gain something, you must pay for it. My brother is known as “GENIUS”, but he is there because he took “EFFORTS”.
超訳:何かを得ようとするならそれなりの代価を払わなければいけない。兄さんも『天才』だなんて言われてるけど『努力』という代価を払ったからこそ今の兄さんがあるんだ。

★ 超訳英語のポイント

○ gain
受験でも出てくる gain (~を得る)ですが、似た単語に get があります。2つとも日本語だと「~を得る」になってしまうのですが、実は重要な意味の違いがあるのです。

get はどんなシチュエーションでも使える「手に入れる」という意味です。特に背景事情や深い意味は込められていないので使い勝手がいい反面、感情を込めたい時には使えません。

gain は価値のあるものを努力して手に入れることを意味します。能力や成果を現すときは、こちらのほうが良いでしょう。ことわざで「No pain, no gain」(苦労なくして利益なし)などと使われるのはこのためです。

ファンタジーだから「gain」できる

『鋼の錬金術師』は、苦しい世界で生き抜く兄弟を描いているようでありながら、実は「代価さえ払えば、与えられる」優しい世界の物語でもありました。ですが私たちは与えられるかも分からないまま、日々代価を支払い続けています。なのに、どうして努力するのか。

その答えは、実は『鋼の錬金術師』の中にありました。エドワードとアルフォンスの兄弟は、決して対価のために努力していたのではなかったからです。途中から国家をひっくり返すような陰謀にまで巻き込まれ、守る対象も弟だけではなくなってゆきました。正直、主人公たちはそっぽを向いて「体さえ手に入ればいいんだ」とアコギな手段を取ることもできたのです。

それでも目の前の人や助けてくれた人たちのために戦うことを決意した、エドワード・アルフォンス兄弟。だからこそ、読者の心を掴んだのではないでしょうか。ファンタジーの設定に甘んじない勇気が、名作を生んだのです。


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